はじめに
2024年に発売されたHeavy Metalのアルバムの中でオススメのものを紹介するブログです。1980-1990年代にキャリアをスタートさせたバンドにしかあまり興味がない人間なので、10枚も挙げることができるかどうか心配でしたが、なんとか10位まで確定させることができました。このブログを見続けてくださった方々、ありがとうございます。
【25/01/02追記】
恐ろしいことに、花冷え。: ぶっちぎり東京 が発売されていることに年が明けてから気づきました。急いで聴きましたが、このアルバムは非常に素晴らしいため、ランク・インさせねばなりません。悩んだ結果、IN FOR THE KILL: BRANDED TO KILL を圏外とし、かつ、花冷え。を第6位としました。いやあ、忙しいとダメですね。2025年はもっとゆとりある生活を送りたいものです。
第1位 Category 7: Category 7 (邦題: 絶撃の暴風渦)
- 私が最も愛するメタル・バンドは OVERKILLなのだが、このOVERKILLのドラマーであるジェイソン・ビットナーが参加したのが本盤。オール・スター・キャストによる、とてつもなく凄いアルバムだと思う。現代における、スラッシュ寄りのメタル・アルバムの最高峰ではなかろうか。
- ヴォーカルをつとめるのはジョン・ブッシュ。実は、私はこの人の声が苦手で、その昔、ANTHRAXに彼が加入した初作品 "Sound of White Noise" (1993年作品) に体が拒絶反応を示したため、その後ANTHRAXを聴かなくなってしまったという黒歴史を持っている。男くさくて、セクシーな声なんだけど、そういう声が苦手だったのだ。本盤も、ジェイソン・ビットナーが参加したというので購入したわけだが、ジョン・ブッシュのヴォーカルを果たして聴き続けられるのか心配だった。しかし杞憂であった。30年以上の時を経て、彼の声も良い意味で枯れ、性的なものをほとんど感じさせない、とても聴きやすいものに変質していた。
- ちなみに、彼の書く歌詞は、音楽に乗りやすい言葉が慎重に選ばれていると同時に、非常に知的。英語がよくわからない方でも、言葉ののせ方が音楽的に非常に滑らかで、無理やり言葉をのせているようなところが皆無であることは容易に感じ取れると思う。また、内容も、日本盤には、私がみるかぎり非常に正確な対訳(訳者は椎名令)がついているので、ぜひ読み味わってほしい。
- ヴォーカルだけではない。ドラムもベースもギターも、ただ凄いの一言。特にドラムは、推しのバンドのドラマーだけあって、もう最高というしかない。彼は、手数が多く、かつ、ヘヴィネスと軽快さを同居させることができるという、唯一無二のスキルを持っている稀有なドラマーだが、本盤でも遺憾なく本領が発揮されている。
- ただ一点、最後のインストは不要では? いや、速弾きギターのバトルは聴いていて楽しいけれども、これを最後に置かねばならない必然性がちょっと感じられない。ボーナス・トラックだと思っておきます。
MV: In Stitches
第2位 EXODUS: British Disaster: The Battle of '89 (Live At The Astoria)
- EXODUSの超名盤 'Fabulous Disaster' が発売されたのは1989年。その年のライブ盤が唐突に発売された。安定した演奏を高音質で聴ける。当然ながら1-3枚目の曲が演奏されているが、1枚目と2枚目は現代の水準に照らすと音質が悪すぎるので、高音質のライブ盤は本当にありがたい。特にベースの音量がちゃんと出ていること、バスドラの音がクリアーなこと、ギターの音が太いのが素晴らしい。これなら、現代の若い世代の人も聴きやすいかも。以下、パートごとに特徴を素描してみる。
- ヴォーカルは、力を放出しているところとセーブしているところが割とはっきりしている。バンドでヴォーカルをやっている方には、長丁場を乗り切るためのメリハリの付け方という点で参考になるかも。
- ギターのバッキングは、もっちのろん、クランチの効いた鋭く揺るぎない演奏で、安心のクオリティ。ギターの音質は 'Fabulous Disaster' におけるのと似ていて、強すぎもなく弱すぎもなく絶妙にディストーションをきかせつつ、低域をやや抑え中音域もバランスよく出したコクのある音に仕上がっている。この音に聞き惚れる方は多いのでは?
- ただ、冒頭の The Last Act of Defiance" におけるAメロとサビのバッキングだけはちょっとがっかりした。ここは裏拍のクランチになっており、ダウン・ピッキングで弾くとリズムが固くなりて裏拍にした意味が薄れ、アップ・ピッキングで弾くとミュートをきかせるのが難しく、大昔にこの曲を耳コピしていたときにどう弾くべきか悩んだことがある。そんなことを思い出し、このライブではどう弾いているか、興味津々で聴き始めたのだが……なんだかあいまいなはっきりしない弾き方だぞ。
- ギター・ソロはおおむねアルバム収録の演奏を踏襲しているが、"Parasite" の一部のように、かなり変えているものもあり、違いを楽しめるものもある。概して、アーミング奏法の部分がアルバムほど大胆でなく、一定の幅に収めているように感じるが、これはライブにおける事故(アーミング奏法には、弦が切れたり、チューニングが狂ったりするリスクが伴う)を避けるためのやむなき措置かもしれない。
- ベースとドラムも、非常に安定している。ドラム(トム・ハンティング)は、スラッシュ・メタルなのに、ファンキーなグルーブというか、独特の軽快さを出すことができる稀有な存在だが、この特徴は本ライブにおいても遺憾なく発揮されている。
MV: Fabulous Disaster
第3位 The Warning: Keep Me Fed
- BAND-MAIDとコラボした、ブラジルの3人姉妹バンド。オルタナやグランジの要素が強いが、1つのジャンルの枠に収まることなく多彩な曲をこなしている。クレジットを見る限り、作曲には3人だけでなく多くの人が携わっているようだ。若い頃の私だったら若干の反発心を抱いたと思うが、K-POPにおける作曲のシステム(チームで作業することが多い)を知った現在の私は大丈夫。実際、曲の多彩さと、各曲の完成度に鑑みると、この作曲システムは非常にうまくいっていると思う。3ピースのユニットでここまで多様な手数を用意できるのは驚異的。しかも一貫性は保たれている。
- サウンドも非常によい。ギターとベースの歪ませ具合が絶妙で、各楽器の音の粒立ちが良いと同時に、ユニゾンの時の音もよくブレンドされている。ドラムの音もクリア。すべてが耳に心地よい。
MV: S!CK
第4位 LOVEBITES: LOVEBITES EP II
- LOVEBITESの曲は、どこかで聴いたことがあるような気がする(つまり新鮮味がないと感じる)けれども、それでは何と似ているかと考えると、やはり何にも似ていない気がする(つまり個性的と感じる)というふうに、アンビバレンツな思いを抱かせるものが多い。それはおそらく、先人たちが気付いてきた技法や表現をしっかり継承し、単なる模倣ではなく自分のものにしているからなのだろう。
- 例えば第1曲 "Unchained" は、IRON MAIDENが得意とする「タッタカ・タッタカ」というリズムをメインに用いているが、IRON MIDENをパクった曲になっているわけではない。他のバンドが十分に使いこなせない「八分音符十六分音符×2」というリズム・パターンを自分のものにしている(肉体化している)ことが窺われるのである。
- というわけで、本作も高いクオリティを誇る作品であることは疑いないのだが、「どこかで聴いたことがあるような気」にさせないために、作曲面でもう一歩踏み出していただけると嬉しい。第1位の CATEGORY7 がいい例だ。押し一辺倒でなく、要所要所でヌケを入れ、緩急自在の曲作りをしている。独創性を強く感じさせるためには、そういう細部の工夫の積み重ねが必要なように思う。LOVEBITESの本盤もさまざまなフックを設けてはいるものの、さらに飛躍を遂げてくれればと思う。
- なお、CDに付属している歌詞対訳が面白い。英詞の表現は、いかにもネイティヴでない人が書いていそうなシンプルなものであるのに対し、対訳のほうは、ニュアンスがよりきめ細やかで、「意訳」を超えている部分すらある。例えば第3曲 "Where's Identity" には "People crowding around the trends" という詞があるが、これに対応する訳は「意識高い系に群がる名もなき者たちよ」である! 対訳者は歌詞を書いたasami氏本人。おそらくこちらの「対訳」のほうが、asami氏のメッセージをよく伝えているのではないか。興味を抱かれた方は、サブスクで聴くだけでなく、ぜひCDをお買い求めください。
- ところで、LOVEBITESは2024年8月10-11日に韓国で初ライブをしている。間違っていたらごめんなさいだが、韓国においてゴリゴリのメタルをしているまともなガールズ・バンドはたぶんない。このライブに触発されてメタルの道に進む女性が増えたらいいなと思います。
MV: Soul Defender
第5位 BAND-MAID: 10TH ANNIVERSARY TOUR FINAL in YOKOHAMA ARENA (Nov.26,2023)
- バンド10周年記念ツアーの最終公演を収録。いつのまにかベテランになっていたBAND-MAIDの揺るぎない安定した演奏。
- 録音のクオリティは標準的だが、リズム隊の音だけは標準を超え非常に明瞭に収録されており、アカネ氏の卓越した足さばきやミサ氏の堅牢なスラップを存分に味わえる。
- アンプラグドの演奏が3曲あり、特に 'anemone' ではサイキ氏の低音が埋もれず明瞭に楽しめる。また'Choose me' ではサイキ氏がピアノを弾きながらソロで歌ってくれているが、その声を聞く限り、数年前と比較して声質に深みが出てきているので、今後、ソウル、ブルース、R & Bの要素を濃くした楽曲を取り入れていくとBAND-MAIDの魅力がさらに増すのではないかと勝手に期待している……が、ニュー・アルバム "Epic Narratives" はそうなってはいなくてちょっと残念。
MV: Unleash!!!!!
第6位 花冷え。: ぶっちぎり東京
- たぶんエクストリーム・メタルにカテゴライズされると思うバンドだと思うが、ほとんど無節操にさまざまな要素を盛り込んでいるため、カテゴライズされることが無意味といえるほどの個性を誇っている。
- 特に好きなのが、ツイン・ヴォーカルであること(最近はトリプル?)。私の乏しい知識内で考えるかぎり、ツイン・ヴォーカル制を恒常的にとって成功したバンドは、他にバービー・ボーイズとマキシマム ザ ホルモンくらいしかないのではなかろうか。ギター・ソロがないぶん、多彩さの確保(つまり、コアなファン以外の人も飽きさせないということ)という点でこの体制は非常に重要だと思う。
- 今回のEPは、ワールド・ワイドのツアー経験によるものだろうか、演奏のレベルが一段上がっており、メジャー・デビュー・アルバムにも残されていたある種の素人ぽさがほぼ完全に払しょくされている(あとは第三のヴォーカルであるヘッツ氏の歌声くらい)。世界に受け入れられたある種の自信も反映しているのだと思うが、とにかく聴いていて気持ちのよいアルバムに仕上がっている。
- 下に、音質も画質も良いライブの動画を貼っておく。このバンドをご存じでない方は、このライブをぜひご覧いただきたい。英語でのMCの言葉量がもっと増えればと思うが、とにかく演奏が素晴らしい。
第7位 DESTRUCTION: Release From Agony
- 1989年にリリースされた大傑作をアナログ・レコードで復活させたもの。このジャケはやはり30cm四方の大きさで味わいたいですよね、ということで、2024年10月に発売されたものを購入。ちなみに、この絵を描いた方は Joachim Luetke。ヘヴィ・メタル界では引っ張りだこの方で、KREATORの "Enemy of God" とか、ARCH ENEMYの "Doomsday Machine" とか、いろいろ手がけている。
- 下記の写真(インナー・スリーブの一部)には "Mastered from the original 1987 Steamhammer LP" と書いてある。つまり本盤はいわゆる板おこしなのだ。オリジナルのマスター・テープは良い状態で残っていないのだろうか。何はともあれ、本盤の音質は非常に素晴らしく、まだ持っていた初期のCD(1989年にリリースされたドイツの輸入盤)よりも優れている。とりわけ、ヴォーカルがつややかなこと、バスドラやベースがクリアーに分離してはっきり聴こえることは特筆しておきたい。大満足の1枚でした。
第8位 IRON MAIDEN: Iron Maiden (2015 Remastered Edition)
- 1980年にリリースされた1stアルバムを2015年にリマスタリングしたものを2024年9月にアナログ・レコードで復活させたもの。ポール・ディアノが今年亡くなったので、追悼の意味を込めて。
- 私がIRON MAIDENを知ったのは "LIVE AFTER DEATH" がリリースされた頃。ブルース・ディッキンソンの声に圧倒されて聴くようになった。1枚目や2枚目はお勉強のために聴いたが、当時の私にはポール・ディアノのヴォーカルは受け容れ難かった。音域が狭いし、ディッキンソンよりも歌い方がラフだと感じた。
- しかし、久しぶりにこのアルバムを聴いて見て、認識を改めた。ポール・ディアノの声はパンキッシュで格好が良いではないか。レコードの音も良いので、しばらく本盤を堪能しよう。
第9位 JUDAS PRIEST: British Steel<Black and White Splatter Vinyl>
*amazon musicへのリンクは、30周年記念リマスター版の曲順を過去の日本のものに並べ直したプレイ・リストです。
- 説明不要の超名盤のアナログ盤。2024年11月に発売されたので購入。<Black and White Splatter Vinyl>とあるが、下の写真のような感じです。ちょっとかっこいいです。
- 冒頭の無音の時間が長めで、針を落としてから慌てずに着席できるようになっているのもナイスです。もしかして、本盤を買うのは高齢者層(つまり素早い動作が困難になってきている層)が多いというマーケティングの結果!?
- 一聴した限り、かつてリマスタリングされた音源をベースに、曲順をアメリカ発売のもの(昔の日本盤も同じ)に並び替えたものと思われる。私のようなオールド・ファンは、こちらの曲順のほうが嬉しい。
- A面は問題なく再生されたものの、見た目にはわからないがどこかが歪んでいるのか、B面は音揺れがひどい。サウンドバーガーという簡易な再生装置しか持っていないのだが、いつか本格的な再生装置で聴きたいものだ。
- まともに聴けないのにもかかわらずここに挙げた理由は、買った主目的が大きいジャケットにあるから。剃刀ジャケは強烈なので、大きいジャケで鑑賞したいですよね。
- そして実は私は、リマスタリングされた音が(客観的には素晴らしいものであることを認めつつ)あまり好みでない。このジャケットをスタンドに立てかけつつ、リマスタリングされる前に発売された昔のCDを鳴らすというのが私のデフォ。本当は昔のアナログ盤がほしいのだが、現在の中古市場における相場がちょっとアレなので、我慢を強いられていた。今回の新品は中古の相場より安価なのでありがたい。
- 【追記】サウンドバーガーにアクリル製のターブルマットを載せ、スタビライザーも付けたら、B面も問題なく再生できました! 再生できるようになるとやはり針を落としたくなるものでして、何度も聴いていると、リマスタリングされた音も耳に馴染んできました…… 異様にソリッドなオリジナル盤の音調は、さまざまな要素を削ぎ落してエッジを立たせた収録曲たちに非常に合っていて大好きですが、中低域を増強するなどして潤いを持たせたリマスター版の音調もまた良し、ですね。特にバスドラとベースの音が重くかつクリアに聴こえる点は素晴らしいです。
MV: Breaking The Law
第10位 JUDAS PRIEST: Rocka Rolla (50th Anniversary Remixed & Remastered)
*現時点でamazon musicにアップされていないようです。アップされたらアルバム写真にリンクを貼ります。
- JUDAS PRIESTの1stアルバムをリマスタリングしたもの。大昔にお勉強としてどこかでオリジナル盤を聴いたはずだが、「なにこれ、古いっ!」としか思わず、その後まったく聴いてこなかった。しかし今回のリマスタリングは素晴らしい。特に注釈を置く必要なく、普通に聴けます。第1曲目からいきなり五拍子だったりして、意欲的な内容ですね。演奏もしっかりしています。
- 伊藤正則氏の解説が読みたくて日本盤のCDを買ったが、内容的にはLPレコードがすごく似合いそう。というわけで、輸入盤のLPも注文してしまった。しばらく聴きこみましょう。
MV: Rocka Rolla
第11位 IN FOR THE KILL: BRANDED TO KILL
*現時点でamazon musicにアップされていないようです。アップされたらアルバム写真にリンクを貼ります。
- 日本のエクストリーム・メタル・バンド。6年半ぶりの2ndアルバム。私はこのアルバムで初めて知ったが、いや、これは素晴らしい。あらゆる音がかっこいい。一切の留保なくお薦めします!
- ただ、何度も聴いているとちょっと飽きがきやすいので、第10位になりました。ただ、家で聴いていると飽きがきてしまいますが、ライブ・ハウスで聴いたら大興奮すること間違いなしでしょう。このバンドの曲はライブがふさわしいのです。
MV: Shutdown